大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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マイクロアグレッション関連文献読書会 2024年10月活動報告

文責|客本敦成(比較文明学研究室)
活動日|10月21日
参加者|5名

 10月の活動では、赤木優希氏による研究発表をおこなった。赤木氏の発表はジャン・ポール・サルトルの「憎悪」概念に注目し、マイクロアグレッションにおける非意識的な敵意を分析するものであった。
 マイクロアグレッション研究において、マイクロアグレッションの「加害者」(この表現の妥当性もしばしば議論になる)が害意や敵意を有しているかどうか、有しているとしてどのように有しているかどうかは、難しい問題として議論されてきた。
 赤木氏はこれに対して、人間関係を複数の自己意識間の「眼差し」の問題として分析し、マイクロアグレッションを発生させる敵意を、サルトルが唱える意味での「憎悪」として位置づけた。
 議論のなかでは、マイクロアグレッションにおいてよくみられる、眼差しを向ける者と向けられる者の間での非対称性をどのように理解すればよいのかについての議論がなされた。またこれと関連して、眼差す者の透明化にかんする、フランツ・ファノンの理論の紹介もなされた。
 11月の活動では、土屋友衣子氏の研究発表をおこなう予定である。

「ラカンと現代社会」研究会 9月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)

活動日|9月5、12、19、26日
参加人数|いずれも6名

9月の研究会では、予定を変更し、ラカンの論文「〈わたし〉の機能を形成するものとしての鏡像段階」を読みました。ラカンが1940年代に発表した論文であり、これまでわれわれが読んできた64年のセミネール『精神分析の四基本概念』とは時代的な開きがありますが、実存主義をはじめとする「意識の哲学」への批判やカイヨワの著作への言及など、扱われるトピックの重なりがいくつもあり、ラカンの思考の連続性を確認することができました。
10月からは『精神分析の四基本概念』に戻り、第Ⅷ講を読みはじめます。

マイクロアグレッション関連文献読書会 2024年9月活動報告

文責|客本敦成(比較文明学研究室)
活動日|9月17日
参加者|5名

 9月は読書会活動(17日)のほか、先月予告した学会発表(23日)をおこなった。学会発表は本プロジェクトの活動の成果を発表するもののひとつであるため、読書会活動の報告と合わせて報告する。

 まず、9月17日には、奥村晴奈、土屋友衣子、客本敦成が、それぞれ研究発表をおこなった。
 奥村は、アーヴィング・ゴフマンのスティグマ理論の観点から、マイクロアグレッション現象を相互行為のプロセスのなかに位置づける発表をおこなった。特にマイクロアグレッションの見過ごされやすさという問題について、マイクロアグレッションは、スティグマとして示された社会的属性をスティグマ者がスティグマであると言及しないことで見過ごされると言えるのではないか、という主張がなされた。
 土屋は、学校教育において発生するマイクロアグレッションについて、ミクロ・ポリティクスという観点から分析をおこなった。土屋は、生徒が「授業のなかでマイクロアグレッションが発生していた」ということを教師に主張することができるに至るプロセスに注目することで、マイクロアグレッションがどのような段階を経て解決されるべき問題として顕在化するかを分析した。
 客本は、ジュディス・バトラーの承認論の観点から、マイクロアグレッション現象における害の「ちょっとした」という性格をマイクロアグレッション現象発生のプロセスのなかに位置づける発表をおこなった。特に事象の承認において重要な作用を働かせる「引用」の機能に注目することで、マイクロアグレッション現象において感情の表出が重要な意味をもつことを指摘した。そして感情が表出されるに至る過程を明らかにする際に害の「ちょっとした」という性格が影響を与えると主張した。

 次に、9月23日の学会発表について報告する。本プロジェクトのメンバー4名(岸田月穂、奥村、土屋、客本)で、兵庫県神戸市で開催された「カルチュラル・タイフーン2024」にて、「マイクロアグレッションの分野横断的考察 理論研究と事例研究の観点から」と題した共同研究発表をおこなった。各報告の概要は以下の通りである。
 第一報告の客本は「蓄積された過去としての「ちょっとした侮辱」―ジュディス・バトラーの哲学からマイクロアグレッション現象を考察する―」という発表をおこなった。近年哲学分野においてマイクロアグレッション研究が盛んになる一方で、マイクロアグレッションの「ちょっとした」という性格が重視されなくなっていることを指摘し、ジュディス・バトラーの承認論を介して先行研究とは別のアプローチを提案した。
 第二報告の奥村は「マイクロアグレッションを解体する:日常的相互行為とスティグマの観点から」という発表をおこなった。奥村は(上述のように)スティグマ論の立場からマイクロアグレッション現象の分析をおこなうことで、マイクロアグレッションの分類についての再考察を行った。また再考察を通じて、〈人間が相互行為を維持しようとする〉という観点から、マイクロアグレッション現象が見過ごされてしまうことの理由を説明した。
 第三報告の岸田は「SNS上のトランスジェンダーに対するマイクロアグレッションと連帯の構造」という発表をおこなった。岸田は動画配信者A(仮名)の動画とそこに寄せられた視聴者のコメントを分析することをつうじて、インターネット上でなされるマイクロアグレッションが発生することと、マイクロアグレッションに抵抗するかたちで配信者と視聴者のコミュニティが形成されることを指摘した。
 第四報告者の土屋は「外国にルーツをもつ高校生が経験するマイクロアグレッション-トラブルのミクロ・ポリティクスという視点から-」という発表をおこなった。土屋はマイクロアグレッションが学校現場において解決されるべき「トラブル」として提示されるプロセスを分析するとどうじに、「ミクロ・ポリティクス」という理論枠組みが、トラブルとして同定される以前のマイクロアグレッションの分析について課題を有していることを指摘した。
 報告後の討議では、時間の制約もあり、十分な議論が尽くされたとは言えないものの、マイクロアグレッション研究における〈マイクロ〉性の位置づけをめぐって、議論がなされた。特に、マイクロアグレッションが害として同定されるに至るためにどのような段階があるかをめぐって、それぞれの理論的枠組みの比較がおこなわれた。

 「カルチュラル・タイフーン」での発表および討議を通じて、マイクロアグレッションという現象が、差別や抑圧、暴力についての研究の歴史のなかでどのような位置づけをもつかを明確にすることは必要な課題である、という見解が共有された。10月以降の活動では、特にこの点を課題として、議論をおこなっていくつもりである。

科研費ジジェクプロジェクト スラヴォイ・ジジェク思想基盤の解明:ヘーゲル、ラカン解釈を中心に 2023 年度研究会活動記録まとめ

2024/06/12
文責:丸山由晴

比較文明学研究室が中心となって進めるスラヴォイ・ジジェク研究プロジェクトがスタートしています。
プロジェクトの主軸となる「ジジェク研究会」は、2024年度より「哲学の実験オープンラボ」の公認プロジェクトとして、活動報告をwebサイトにアップ始めました。
2023年度までの活動状況は別紙にまとめましたのでご参照下さい。

・スロベニア哲学者・精神分析家のスラヴォイ・ジジェクの思想は、近代ドイツの哲学者ヘーゲルとフランスの精神分析家ラカンの融合。本プロジェクトでは本邦初の科研費によるジジェク研究チームを立ち上げ、特に彼のヘーゲルおよびラカンの解釈に着目し、テキストへの評注、専門家による研究発表、シンポジウムの開催、書籍の出版を行う。
・オンラインで週一回の翻訳ミーテング、月一回程度の研究会を行い、年に2回程度対面でも東京と大阪で研究会を行っている。毎月の研究会では、テキストへの評注作業であるデータベース・ミーティングと各専門家によるジジェク研究の発表を行っている。
・ジジェク翻訳書の出版も進行中。
International Journal of Žižek Studies(『国際ジジェク研究』)誌との連携による特集号の発行を予定している。
・助成期間中に、各専門学会におけるジジェク・シンポジウムの開催も予定している。

※科学研究費基盤B(23H00573)「スラヴォイ・ジジェク思想基盤の解明:ヘーゲル、ラカン解釈を中心に」研究代表者・野尻英一(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K25270/

マイクロアグレッション関連文献読書会 2024年8月活動報告

活動日|8月26日
参加人数|5名
文責|客本敦成(比較文明学)

8月は2件の研究発表をおこなった。
まず岸田月穂氏(大阪大学大学院)が、インターネット上におけるトランスジェンダーへのマイクロアグレッションについての発表を行った。トランスジェンダー当事者である動画配信者に対しておこなわれるマイクロアグレッションが、単に当事者に対する攻撃だけではなく、その配信者のファンも巻き込む形で行われることが指摘された。発表後の議論では、マイクロアグレッションが、それ以外の他のさまざまな形態の暴力や差別と重なって、重層的に作用している可能性が指摘された。
次に客本敦成が、ジュディス・バトラーの哲学とマイクロアグレッション研究の関係についての発表をおこなった。近年英語圏を中心に活発に展開されている「マイクロアグレッションの哲学」であるが、その主な関心は概念の分析と差別問題の構造的把握にある。発表者はその状況を紹介したうえで、バトラーの時間論を参照することで、「マイクロアグレッションの哲学」とは異なるマイクロアグレッション現象に対する哲学的アプローチを提案した。

なお当研究会は、現時点での研究会活動の成果の発表として、9月22日から23日にかけて行われるカルチュラル・スタディーズ学会大会「カルチュラル・タイフーン2024」にて、「マイクロアグレッションの分野横断的考察 理論研究と事例研究の観点から」と題したグループ発表をおこなう。こちらでの発表に向けて、9月は準備を進める予定である。

現代思想研究会 2024年8月・9月活動報告現代思想研究会

活動日|8月31日、9月2日
参加人数|いずれも4名
報告者|客本敦成(比較文明学)

今回は8月と9月の活動日が近かったため、あわせて報告を行う。
8月には、茶圓彩氏(京都大学)による発表「「演劇性」概念における恐怖の問題」をおこなった。茶圓氏の発表は、アメリカの批評家マイケル・フリードにおける「演劇性」の概念について、フリードがこの概念を必要とした理由をスタンリー・カヴェルとの比較から明らかにしようとするものであった。
発表後の議論では、カントの『判断力批判』の崇高論の問題設定との類似性についての指摘がなされたほか、先行研究による、フリードにおけるホモファビア(同性愛嫌悪)の指摘についても議論がなされた。
9月には、林宮玉氏(大阪大学)による発表「ドン・ジョヴァンニ、ニーチェのもう一つの名前――バタイユにおけるシミュラークルの行方」をおこなった。林氏の発表は、フランスの思想家ジョルジュ・バタイユにおける「ドン・ジョヴァンニ」の形象について、キルケゴールのドン・ジョヴァンニ解釈やバタイユのヘーゲル&ニーチェ評価といったバタイユ思想のコンテクストを精査することを通じて、その哲学的企図を明らかにしようとするものであった。
発表後の議論では、ピエール・クロソウスキーのシミュラークル概念とバタイユの「ドン・ジョヴァンニ」形象の関係が改めて確認されたほか、ジャック・ラカンとバタイユの「ドン・ジョヴァンニ」解釈の違いについても検討された。
10月は池田信虎氏(大阪大学)の発表を行う予定である。 

「ラカンと現代社会」研究会 7月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)

活動日|7月4、18、25日
参加人数|いずれも6名

7月の研究会では、ラカンのセミネール『精神分析の四基本概念』の第Ⅶ講を読みました。ラカンがホルバインの『大使たち』とダリの作品の親近性について論じているところから、神経症における「眼差し」の経験と精神病(パラノイア)における「眼差し」について議論したほか、質疑応答でのやり取りからサルトルとラカンの「他者」概念の違いを改めて確認しました。
これで漸く第Ⅶ講が終わります。8月は活動せず、9月から第Ⅷ講に入ります。岩波文庫版の上巻だと、残り2講となりました。焦らずゆっくり議論しながら読み進めたいと思います。

第12回ジジェク研究会

日時:2024年6月15日(土) 13:30〜17:50
場所:zoomミーティング
参加人数:17名

プログラム
データベース・ミーティング:Less Than Nothing, Chap.4: Is It Still Possible to Be a Hegelian Today? よりHegel versus Nietzsche 節(pp.195-196/¶7-11)
発表(小川歩人(大阪大学)):「不可能なものとは別の仕方でとは別の仕方で… 」——日本におけるデリダ、ラカン、ジジェク受容」

概要報告
データベース・ミーティング
データベース・ミーティングにおいては、今回も引き続きLess Than Nothing, Chap.4: Is It Still Possible to Be a Hegelian Today? のHegel versus Nietzsche 節が扱われた。
ヘーゲル以後の論者が無視していたものこそ重要なのだ、という論(前回の範囲)を背景に、フランスの哲学者Gérard Lebrunによる「ニーチェ」的なヘーゲル読解(L’envers de la dialectique)を補助線として議論が展開される。否定性の捉え方で、いわゆるヘーゲル的な見方とニーチェ的な見方が対比される。すなわちヘーゲルにおいては否定性という過剰なるものは結局、総体性、肯定的な全体の契機に回収されてしまうのに対して、ニーチェからすればそこには否定性それ自体に対する肯定的な眼差しが欠けている。とはいえこれは「いわゆる」見方であり、次節”STRUGGLE AND RECONCILIATION”で展開されるジジェク自身の論を検討していきたい。
各所への具体的なコメントについては本ページに添付の資料を確認のこと。
来月はLess Than Nothingより、Chapter 8: Lacan as a Reader of Hegelを扱う。

研究発表(ジジェク研究会)
後半の研究発表では、フランスの哲学者ジャック・デリダを専門とする大阪大学特任講師の小川歩人氏によって、一般に対立するとみなされるデリダとフランスの精神分析家ジャック・ラカン、そしてその受容者たち(ジジェクと日本の批評家・哲学者東浩紀)とにある種の共通点がある旨、複雑な関係をほぐしながら整理する発表がなされた。
デリダは一般に、ラカンの精神分析理論を批判していると理解されている。しかし小川氏は、批判ののちにデリダが示す論理(「郵便空間の論理」)がむしろ、ラカン自身が後期に提唱する〈性別化の式〉における「女性の式」と重なるところがあるとする。この重なりと隔たりに関して、日本での事情としては、日本におけるジジェク受容とデリダ派(日本の批評家・哲学者東浩紀)との関係もまた絡むこととなる。すなわち東はラカン派のジジェクを批判するが、むしろ両者にある種の共通性があると小川氏は指摘する。このような複雑かつ相互的な関係を整理する発表であった。
以上
文責:丸山由晴(比較文明学・M3)

マイクロアグレッション関連文献読書会 6月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)
活動日|6月17日
参加人数|いずれも5名

 今回の研究会では、2件の研究発表を行いました。まず客本敦成(大阪大学大学院、本報告執筆者)が、現在のマイクロアグレッション研究を巡る哲学的研究の現状と今後の方向性を議論しました。具体的には、Jeanine Weekes Schroerの論文”Giving Them Something They can Feel: On the Strategy of Scientizing the Phenomenology of Race and Racism”における、マイクロアグレッションの被害者の「証言」についての問題提起を紹介したうえで、ジュディス・バトラーの「反覆」という概念を導入し、「証言」を言説の運動のなかで位置づけることの必要性を主張しました。
 次に奥村晴奈(大阪大学大学院)が、マイクロアグレッション研究とアーヴィング・ゴフマンのスティグマ論を比較検討しました。ゴフマンの「可視的なスティグマ」「不可視的なスティグマ」という区別を導入することによってマイクロアグレッション現象のより精緻な分析がなされることが期待される一方で、ゴフマンのスティグマ論における「相互行為」という前提がマイクロアグレッション現象の前提と完全に重なるわけではなく、今後も見当が必要であることが主張されました。
 次回も引き続き研究発表を行う予定です。

マイクロアグレッション関連文献読書会 4月・5月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)
活動日|4月30日、5月13日
参加人数|いずれも5名

4月及び5月の活動では、現在計画している、参加者間合同での研究発表(※)に向けて、意見交換をおこないました。
まず4月には、発表を希望している各メンバーが、自分の研究関心からどのようにマイクロアグレッションという現象を議論するかということを簡単に報告し、今後の研究の方向性や互いの関心の異同を確認しました。それぞれの関心は異なるところも多いのですが、「理論研究と事例研究をベースに、従来のマイクロアグレッション研究とは異なるかたちでマイクロアグレッションについての考察を展開・応用するためのアイデアを提示する」という全体の方向性を共有することができました。
次に5月には、全体の方向性を改めて確認したうえで、研究発表のタイトルや紹介文の作成を行いました。全員の関心を統一したうえで短い文章に落とし込まなければならないため、お互いに議論は行ったものの、まだ十分に合意することはできていません。今後も議論を行いながら、研究会活動を進めたいと思います。