大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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「現代思想におけるハイデガー研究会」三月活動報告

文責:葛西李成(社会学系・比較文明学)
活動日: 3/7、3/14、3/21、3/28
三月の研究会では、マルティン・ハイデガー『存在と時間』の第一編第三章「世界の世界性」までを扱いました。「存在の意味への問い」から導かれていく現存在の分析論を読み進めながら、『存在と時間』の主要概念の一つである「世界=内=存在」について多くの議論を交わすことができました。当時の哲学・生物学・精神医学などの知見を踏まえつつも、よりテキストそのものに根差した読解を進められたと感じています。来月も引き続き、『存在と時間』を読み進めていく予定です。

哲学の実験オープンラボ 2022年度全体活動報告

2022年度は本プロジェクトを開始して二年目にあたるが、発展の年となった。

4月には外部資金(三菱財団社会福祉事業・研究助成)による大型メタバースイベント「自閉症学超会議!」を共催のかたちで開催した。4月2日から9日まで8日間にわたりのべ500名を超える参加者を得ることができ、専門家、実践家、当事者とその関係者、一般参加者が集うオンラインコミュニティ空間を実現、社会実装の着実な成果をあげることができた。メタバースを用いた大型学術イベントとして国内先駆例となった。

6月には日本ヘーゲル学会大会におけるメインシンポジウム「ヘーゲルと精神分析」を共催、7月には日本学術振興会外国人研究者招へいプログラムとの連動、および早稲田大学SGUグローバルアジア研究拠点との共催として国際パネルディスカッション「竹内好のアジア主義と現代―転移関係を超えて―」を開催した。米国ウィスコンシン大学ヴィレン・ムーティ教授、コーネル大学酒井直樹名誉教授らにご登壇いただき、活発かつ充実した議論が行われた。同7月には有志学生団体minoriaとの共催で聴覚障害をテーマとした「バリアフル座談会」が開催された。10月には、教育人間学&比較文明学研究室合同合宿を開催、また学生団体「さぽちむ」との共催によりグローバルビレッジ津雲台を舞台として地域住民、留学生らとの交流スペースの構築を企図した「フリードリンク」イベント、小中学生らに体験してもらう「プレゼン大会」が開催された。

研究会形式の公認プロジェクトは、「美的近代研究プロジェクト」「ラカンと現代社会プロジェクト」「マルクス主義的社会理論研究会」「現代思想におけるハイデガー研究会」の計4つが学生主体により継続されている。プロジェクトごとに毎週、また毎月などのペースで研究会が開催されている。

企業と提携したインターンシップ企画は、株式会社レイ・クリエーションにご協力いただき、4月と2月の2回開催され、計三名の学部学生が参加した。

今年最大の活動トピックとしては、社会に向けたアウトリーチ活動として、ラボ公式ラジオ放送局「PiXOL Radio」を開設し、インターネット・ライブでの放送を開始したことである。5月にパイロット放送を行い、その後、およそ月一回程度のペースで放送を実施し、1月までに計9回の放送を実施した。本年度は「テツガクシャの御用聞き」という番組名で、おもに哲学を学ぶ大学院生をゲストに招き、哲学対話の手法で話を聞く番組を放送した。固定的な視聴者層も獲得することでき、確かな手応えがあった。こちらはさらに発展させてかたちでの第二期放送を2023年度に予定している。

以上のように、2022年度は、研究者、学生、企業、NPO、当事者、一般の方など多様なアクターを巻き込み、多様な様式による多数の行事が開催された実り豊かな年となった。今後は、社会との実質的な連携を本格的に深めていきたい。

メタバース空間で開催された「自閉症学超会議!」における交流の模様

小中学生が参加した「プレゼン大会」の模様

Radio PiXOL「テツガクシャの御用聞き」放送画像

聴覚障害をテーマとした「バリアフル座談会」の模様

マルクス主義的社会理論研究会 3月活動報告

丸山由晴(社会学系・比較文明学M2)

活動日:03/10、03/24、03/31

3月もマルクス『資本論』の購読を継続し、第5章第2節「価値増殖過程」、第6章「不変資本と可変資本」、第7章「剰余価値率」を読みました。
資本がその価値を増やすメカニズムが、労働力による価値付与の点から説明され、ひいてはそこから生じる不変資本と可変資本という資本の二面性へと議論が展開していく、第一巻の白眉とも言える箇所でした。各回ともに前回の内容を確認しつつ、丁寧に読解、議論していきました。

「ラカンと現代社会」研究会 3月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)
活動日:3月9、16、30日
3月の研究会では、ラカンのセミネール『精神分析の四基本概念』の第Ⅴ講を読みました。「テュケー」と「反復」の関係を巡って、緻密に議論ができました。
また、メンバーの研究発表も行いました。フレドリック・ジェイムソンのヘーゲル解釈を、スラヴォイ・ジジェクやジュディス・バトラーと比較しながら検討する発表でした。ラカン派理論の現代的意義を巡って、こちらも活発な議論ができたと思います。

インターンシップ体験記(4)哲学の実験オープンラボⅹ株式会社レイ・クリエーション

末次 友樹
インターンシップ先:株式会社レイ・クリエーション様(https://www.raycreation.co.jp/
活動日:2023年2月20~22,24日

二月の上記期間に株式会社レイ・クリエーション様にてインターンシップ活動をさせていただいた。

レイ・クリエーションは、主にエネルギー分野や工業分野をメインにしたデザイン事業をされている。私は、取引先企業様との営業関係の打ち合わせに多く同行させていただき、またコンテンツの制作にも関わらせていただいた。

特に印象的なこととして、制作するコンテンツの内容について深く理解しようという姿勢がある。先方のアイディアを読み取ってうまく形にするだけでなく、細かい内容までしっかり把握することで、こちらからもより良いアイディアを提案できる、という姿勢に感銘を受けた。

他にも上記の内容にも繋がるが、取引をする分野が幅広いため毎回様々なことを学ぶことができる、という話も印象的だ。例えば、ある企業の研修動画を作成するとなれば、その研修内容を自分も学ぶことになる、そういった意味での「学び」が多いというある社員の方はおっしゃっていた。私は人間科学(部)にもそういった点があるのではないかと感じた。もちろん「人間」という対象を様々な分野の知見から考えることとベクトルは反対だが、重要な共通点ではないかと思う。

最後に、今回私どもインターンシップ生を受け入れてくださった社員の皆さま、また打ち合わせや撮影などに私どもの同席の許可を出してくださった取引先企業の皆さま、本当にありがとうございました。

美的近代研究プロジェクト第14回読書会報告

文責:安藤歴(共生学系・共生の人間学)
3月16日(木)19:00~
参加者11人

今回の研究会では、東京大学の竹峰義和教授をお呼びして、「ジークフリート・クラカウアーの美学と政治をめぐって」という講演をしていただきました。竹峰教授は昨年末にクラカウアー『映画の理論―物理的現実の救済』(東京大学出版・2022年)を翻訳・出版されていますが、今回はこの著作を含めてクラカウアーの著作をまたいでお話しいただきました。講演では、クラカウアーの特徴が主題やジャンルの越境性やモダニズムを高級芸術に限定せず、近代の感覚や経験の新しい組織化として大衆の感覚経験の変容を跡付ける見方として特徴づけられ、「ヴァナキュラー・モダニズム」や「点状化・アトム化」、「大衆の装飾」などをキーワードとなりました。
加えて、イズムに典型であるような理念に対する懐疑から、クラカウアーが推奨した「待つ」という姿勢にも重要な論点として提起されました。『映画の理論』については、クラカウアーが構成主義に対してリアリズムを評価していたこと、映画を写真の延長だと見なし、「物理的現実を記録し開示する」という映画観なども、今としてはむしろ興味深い議論でした。
質疑応答も盛り上がり、実り多い研究会となりました。

次回は、4月21日19:00から、アレクサンダー・クルーゲとオスカー・ネークト(原書Öffentlichkeit und Erfahrung – Zur Organisationsanalyse von bürgerlicher und proletarischer Öffentlichkeit (1972).英訳:Public Sphere and Experience: Analysis of the Bourgeois and Proletarian Public)の一部抜粋を読みます。

美的近代研究プロジェクト第13回読書会報告

文責:安藤歴(共生学系・共生の人間学)

3月1日(水)19:00~
参加者8人

今回の研究会では、ジークフリート・クラカウアー『カリガリからヒトラーへ—ドイツ映画1918-1933における集団心理の構造分析』(1947: 1970)に所収されている補遺「プロパガンダとナチの戦争映画」を読みました。クラカウアーは、ベンヤミンやアドルノらフランクフルト学派とも関係深く、これまでアドルノ・ホルクハイマーを読んできた延長線上で扱いました。ナチのプロパガンダ映画における手法の分析から、「リアル」をめぐるクラカウアーの態度まで、盛んな議論がなされました。
次回は、3月16日19:00から、東京大学の竹峰義和教授をお呼びして、「ジークフリート・クラカウアーの美学と政治をめぐって」という講演をしていただきます。

「現代思想におけるハイデガー研究会」二月活動報告

文責:葛西李成(社会学系・比較文明学)
活動日:2/7、2/14、2/21、2/28

二月の研究会では、マルティン・ハイデガー『存在と時間』の序論「存在の意味への問いの提示」を扱いました。既存の哲学史への批判を交えながら徐々に現存在の存在へと照準を合わせていくハイデガーの歩みに連れ添いながら、丁寧に解釈を進めることができたと思います。また、ギリシア哲学やドイツ観念論からの影響や、サルトル・レヴィナス・デリダ・ラカンらとの対応関係などについても充実した議論ができました。来月も引き続き、『存在と時間』を読み進めていく予定です。

「ラカンと現代社会」研究会 2月活動報告

文責:客本敦成(社会学系・比較文明学)
活動日:2月9、27日
 2月の研究会では、引き続きラカンのセミネール『精神分析の四基本概念』の第Ⅳ講を読みました。重要な概念のひとつである「反復」を巡り、どのように解釈できるか議論しました。
また、メンバーの研究発表も行いました。臨床心理学や精神医学をベースに「枠」という概念を再考するもので、こちらも精神分析理論と心理療法の関係を考える上で有益でした。

マルクス主義的社会理論研究会 2月活動報告

丸山由晴(社会学系・比較文明学M1)

活動日:02/17

今月の活動では以前より読書会として行ってきたマルクス『資本論』を継続し、第5章第1節「労働過程」を購読しました。
貨幣が、他のものの手によらず自己増殖する「資本」となるのは何故なのか、それは「労働力」という一つの商品が他の商品に対して労働するからである、という前節までの流れを踏まえた上で議論を行いました。
第5章では、資本家が労働力を商品として消費する過程、すなわち価値が増殖する過程について記述されるのですが、第1節では、そのような資本家とは差し当たっては関係のない「労働」についての考察がなされています。
議論としては、労働が意識的になされる自然と人間とのやり取り、物質代謝であることや、資本家の元で労働がなされるならば、労働手段も対象もすべて資本家が購入したものであるから、生産物、価値が資本家のものであることなどが話されました。