大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
Twitter

第二回 人+文 哲学研究発表会

 2026 年 6 月 28 日(日)、大阪大学箕面キャンパス外国語学部図書館 3 階の AV コモンズにて第二回「人+文 哲学研究発表会」が開催された。学部・研究科を超えた哲学系研究コミュニティの創設を目的として開催された本研究会では、発言・議論しやすい空間形成を目的とし、今回より「特定会話者」制度が導入された。この制度においては、各発表者に一名ずつ指名された「特定会話者」が、双方向的なコミュニケーションを発表者と共に行うことによって、発表内容に対する理解を会場全体に開き、議論しやすい環境を形成することが目指された。またフロアとの質疑応答においても一方的なやり取りとなることのないよう、会話的な双方向性を目指した様々な取り組みがなされた。
今回の研究会では、学部・研究科の垣根を超えた六名の若手研究者が研究発表を行った。葛西李成氏(大阪大学人間科学研究科)の「芸術家はいかにして自然の寵児であるのか:カントにおける自然美と芸術美」は、『判断力批判』の天才論において「自然」と「芸術」が交差する構制を追い、受動性と能動性が不可分に融解した界面として芸術実践を位置づけるものであった。特定会話者の中川祥太氏(大阪大学人文学研究科)とのコミュニケーションにおいては、「美学イデオロギー」の問題圏におけるカント天才論の限界と可能性に焦点が当てられた。その後の質疑応答においては、発表者の『判断力批判』読解をめぐる内在的な議論に加え、本発表の議論と現代における芸術実践の接合の可能性が検討された。
 甲藤彩華氏(大阪大学人間科学部)の「能力主義化するフェミニズム:「やればできる」は何を覆い隠してしまうのか」は、『リーン・イン』やフェムテックの問題において顕在化する能力主義とフェミニズムの関係を分析しつつ、「男性的なものへの志向」と「女性の解放」の共犯関係をフェミニズムそのものに内在する問題として批判的に問い直していく理路を提示したものであった。特定会話者の堀合愛梨沙氏(大阪大学人文学研究科)とのコミュニケーションにおいては、フェムテックをめぐる論点を中心にして上述の両者の関係が改めて整理された。その後の質疑応答においては、本発表の議論がフェミニズムの諸潮流の展開に即して敷衍されるとともに、このようなフェミニズムの限界点を問い直すべき主体とはそもそもこの社会の誰であるのかという論点にも議論がなされた。
 早川奨氏(大阪大学人文学研究科)の「カッシーラーと道徳哲学」は、カッシーラーが 『カントの生涯と学説』で施したカント『実践理性批判』読解と、『シンボル形式の哲学』の内的構造を照応させることによって、「客観的な当為に基づいて現在の行為を規定する」という共通した構造が両者に見出せることを時間論の観点から明らかにした。特定会話者の船橋かれん氏(大阪大学人間科学研究科)とのコミュニケーションにおいては、カッシーラーにおける道徳哲学と文化哲学の相違点と距離に焦点が当てられた。その後の質疑応答においては、理念がいかに時間性を帯びるかという点が検討されつつ、カッシーラー的道徳哲学と社会規範をめぐる実践的な可能性にも議論がなされた。
 中川祥太氏(大阪大学人文学研究科)の「批判的合理主義における非合理について」 は、自らを包括的合理主義とも非合理主義とも区別するポパーの「批判的合理主義」の立ち位置の検討から出発し、理論の出自の正当化可能性ではなく理論の帰結の批判可能性に合理性を転換させるという態度に、ポパー哲学全体を貫くスキーマを見出すものであった。特定 会話者の葛西李成氏(大阪大学人間科学研究科)とのコミュニケーションにおいては、「非暴力性」という観点から自らを非合理主義と区別するポパーの態度に対し批判的な検討がなされた。その後の質疑応答では、理論の出自における非合理的要素に一定の役割を与えるポパーの議論について、他の思想家との照応も含めた検討がなされた。
 船橋かれん氏(大阪大学人間科学研究科)の「幸福の在り方の再検討」は、現代社会において進行しつつある「幸福の規範化」が個人にとって引き受け不可能なものであることを示しつつ、それに代わる個人の態度としてシモーヌ・ヴェイユの「注意」概念に着目するものであった。特定会話者の早川奨氏(大阪大学人文学研究科)とのコミュニケーションにおいては、現実へと「向かう欲」というヴェイユ的態度がハイデッガー的な実存態度と有する相違点について検討された。その後の質疑応答においては、「幸福」という概念 有する規範性・理念性の検討に加え、シモーヌ・ヴェイユの議論を分析系の倫理学に援用することの可能性も議論された。
 堀合愛梨沙氏(大阪大学人文学研究科)の「On Reffering to Someone as…:ジェンダー化された言葉を手放すべきか」は、she/he などといったジェンダー化された言語表現を誰に対しても使用するべきでないという「急進的主張 Radical Claim」の立場を批判的に検討しつつ、言語および概念を「補充」しつつ「再領有」していくことで意味のネットワークを変容させていく、開かれた言語実践の可能性が提示された。特定会話者の甲藤彩華氏(大阪大学人間科学部)とのコミュニケーションにおいては、本発表で提示された言語の「再領有」を現実に実践していくことの困難と可能性について考えられた。質疑応答においては、このような言語実践が条件づけられているコミュニティの範囲とあり方について議論されるとともに、言語が常に「再領有」に開かれていることの両義性についても検討がなされた。