京都学派およびポスト京都学派と科学哲学・技術哲学の現在
3年にわたって展開してきた大阪大学グローバル日本学教育研究拠点・拠点形成プロジェクト「京都学派およびポスト京都学派における科学哲学および技術哲学研究」の総括シンポジウム「京都学派およびポスト京都学派と科学哲学・技術哲学の現在」を開催いたしました。今回はフランス哲学・ドイツ哲学・日本哲学の分野で活躍する気鋭の中堅・若手研究者に研究発表を行っていただき、日本哲学研究の最前線を更新する充実したシンポジウムとなりました。
まず本プロジェクト代表者である大阪大学COデザインセンター教授の山崎吾郎先生から、本プロジェクトとシンポジウムの紹介があり、続いて三名の研究者の方から研究発表をしていただきました。
大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程に在学する眞田航さんには「西田哲学とポストモダン:他者の問題をめぐって」のタイトルで研究発表をしていただきました。眞田さんはポストモダン思想の論者である小林敏明、酒井直樹、柄谷行人による西田批判を踏まえて西田の「私と汝」を検討しています。西田は「シュタイ」(=身体的な行為の次元)における「飛躍」的な他者との出会いを論じているものの、それを「神の愛」に基づいた予定調和的な他者との結びつきによって抑圧してしまっていると眞田さんは指摘し、西田における他者の抹消という課題を提出しました。
京都大学大学院人間・環境学研究科士後期課程に在学する岡田悠汰さんには「ハイデガーから三木清の技術論を読む――現代技術哲学への寄与に向けて」のタイトルで研究発表をしていただきました。岡田さんは三木清の技術論とハイデガーの技術論とを比較し、「三木は因果法則によって理解される「自然」との調和を前提するために技術に積極的なものを見出しているが、ハイデガーは人間の理解を越える「ピュシス」の襲い掛かりを重視するために、技術には消極的な可能性しか見出されない」と指摘します。岡田さんは技術に対して楽観的な三木と悲観的なハイデガーの双方に目を配りながら新しい技術哲学を構想するという課題を提出しました。
大阪大学大学院人間科学研究科准教授の近藤和敬先生には「三木清の西田の絶対無の解釈から『構想力の論理』の読解へ――三木のスピノザ解釈を手掛かりに」のタイトルで研究発表をしていただきました。近藤先生は三木の初期の論考から『構想力の論理』まで、様々なテキストを読み解きながら三木清の思想の成り立ちを探ります。そして三木によるスピノザ受容を丁寧にたどり、三木がスピノザ哲学の影響のもとで西田哲学を受容しながら三木の歴史的人間学が構想されていることを示していきます。そしてデュルケームなどの集合表象論とマルクスの生産関係論のあいだを射抜くプロジェクトが『構想力の論理』にはあると論じ、それを今後の研究で明らかにしていくと宣言されました。
総合討議では昨年まで本プロジェクト代表者を務めた専修大学文学部教授の檜垣立哉先生と報告書執筆者である大阪大学大学院情報科学研究科特任助教の織田和明も参加し、参加者とともに京都学派およびポスト京都学派と科学哲学・技術哲学の現在について議論を深めました。今回ご発表いただいたいずれの研究も今後の発展が大きく期待されます。本プロジェクトはここで一度総括となりますが、引き続き研究に取り組み、また新しい形でみなさまとともに研究を深めていく場を持ちたいと考えています。
今回のシンポジウムは大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター・IMPACTオープンプロジェクト「哲学の実験オープンラボ」には共催としてご協力いただきました。会場には19名、オンラインでは52名の計71名の方にご参加いただきました。みなさまのご協力に深く感謝申し上げます。