大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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第28回ジジェク研究会

日時:2025年11月15日(土) 13:30〜17:00
場所:Zoom(オンライン)
参加人数:11名

1. ジジェク研究会:”ポスト/ヘーゲル主義者としてのジジェク
――Less Than Nothing におけるヘーゲル的反復とその限界”【発表者|飯泉佑介】
2. ジジェク研究会:”移民・トラウマ・ケア——ジジェク主体論と日本に暮らすミャンマー人たちの生の交錯(Migration, Trauma, and Care: The Intersection of Žižek’s Theory of the Subject and the Lives of Myanmar Migrants in Japan)”【発表者|吉田尚史】
 第87回ジジェク研究会では、研究発表を二件おこなった。
 第一発表の飯泉発表では、スラヴォイ・ジジェクがヘーゲル解釈の中でしばしば論じる「ヘーゲル的反復」が検討された。
 ジジェクは博士論文『もっとも崇高なヒステリー者』以来、繰り返しヘーゲルにおける「反復」を問題としてきた。すなわち「遡行的遂行性」とジジェクが呼ぶヘーゲルの論理において、未来はそれが訪れたあとで、事後的に再構成されるものである。
ジジェクはこうしたヘーゲルの論理のうちに、時間が常に偶然性に開かれたものであるという「純粋反復」のアイデアが前提されていると指摘する。ただしジジェクによれば、ヘーゲルは「純粋反復」を十分に論じるには至らなかった。そこでジジェクはヘーゲルの「限界」を指摘することになるのだが、飯泉はこれに対してジジェクのいう「純粋反復」の契機をヘーゲルのうちに見出すことは可能であると指摘し、それにも関わらずジジェクがこのような主張をおこなう理由を分析した。
 飯泉の発表は、ジジェクにおけるヘーゲル解釈という根本的な課題を「反復」という主題に即して検討しつつ、ジジェクが指摘するヘーゲルの限界に反対することで、ヘーゲル哲学の現代的意義をも主張するものであった。
 質疑応答では、飯泉が必ずしも主題的に扱わなかったジジェクのラカン解釈やドゥルーズ解釈にも触れられ、議論の更なる展開の可能性が探られた。
 第二発表の吉田発表は、ジジェクにおける主体論を援用し、ミャンマーから日本を訪れる移民・難民の主体性について考察するものであった。
 ジジェクは論文「デカルトとポストトラウマ的主体」において、現代社会が主体の象徴的な安定性を揺るがす「外傷的社会」であることを指摘する。こうした社会において、主体は自身の欠如や不完全さに直面しつつ、自分自身を再構成することによって生きていくほかない。
 吉田はこうしたジジェクの議論を踏まえつつ、ミャンマーからの移民の主体化という事例を取り上げ、また、ケア論における主体編成の議論を参照することで、ジジェクが論じた主体の再構成を、より具体的に、かつ、他者との具体的な関係のなかで展開されるものとして分析した。
 吉田の議論は、一見抽象的に思われるジジェクの議論の有効性を、経験的な事例の分析によって示すと同時に、ケア論という、他者との関係を論じる理論にジジェクの主体論を接続するという点において、希少な試みであったと言える。
 質疑応答では、精神分析の研究との比較が検討されたほか、カトリーヌ・マラブーとジジェクの主体性をめぐる立場の違いが紹介されるなど、多分野からのコメント・質問がなされた。
 詳細な議論の内容に関しては、添付資料を参照のこと。

※科学研究費基盤B(23H00573)「スラヴォイ・ジジェク思想基盤の解明:ヘーゲル、ラカン解釈を中心に」
 研究代表者・野尻英一
 文責|客本敦成(比較文明学)