大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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科研費ジジェクプロジェクト スラヴォイ・ジジェク思想基盤の解明:ヘーゲル、ラカン解釈を中心に 2023 年度研究会活動記録まとめ

2024/06/12
文責:丸山由晴

比較文明学研究室が中心となって進めるスラヴォイ・ジジェク研究プロジェクトがスタートしています。
プロジェクトの主軸となる「ジジェク研究会」は、2024年度より「哲学の実験オープンラボ」の公認プロジェクトとして、活動報告をwebサイトにアップ始めました。
2023年度までの活動状況は別紙にまとめましたのでご参照下さい。

・スロベニア哲学者・精神分析家のスラヴォイ・ジジェクの思想は、近代ドイツの哲学者ヘーゲルとフランスの精神分析家ラカンの融合。本プロジェクトでは本邦初の科研費によるジジェク研究チームを立ち上げ、特に彼のヘーゲルおよびラカンの解釈に着目し、テキストへの評注、専門家による研究発表、シンポジウムの開催、書籍の出版を行う。
・オンラインで週一回の翻訳ミーテング、月一回程度の研究会を行い、年に2回程度対面でも東京と大阪で研究会を行っている。毎月の研究会では、テキストへの評注作業であるデータベース・ミーティングと各専門家によるジジェク研究の発表を行っている。
・ジジェク翻訳書の出版も進行中。
International Journal of Žižek Studies(『国際ジジェク研究』)誌との連携による特集号の発行を予定している。
・助成期間中に、各専門学会におけるジジェク・シンポジウムの開催も予定している。

※科学研究費基盤B(23H00573)「スラヴォイ・ジジェク思想基盤の解明:ヘーゲル、ラカン解釈を中心に」研究代表者・野尻英一(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-23K25270/

マイクロアグレッション関連文献読書会 2024年8月活動報告

活動日|8月26日
参加人数|5名
文責|客本敦成(比較文明学)

8月は2件の研究発表をおこなった。
まず岸田月穂氏(大阪大学大学院)が、インターネット上におけるトランスジェンダーへのマイクロアグレッションについての発表を行った。トランスジェンダー当事者である動画配信者に対しておこなわれるマイクロアグレッションが、単に当事者に対する攻撃だけではなく、その配信者のファンも巻き込む形で行われることが指摘された。発表後の議論では、マイクロアグレッションが、それ以外の他のさまざまな形態の暴力や差別と重なって、重層的に作用している可能性が指摘された。
次に客本敦成が、ジュディス・バトラーの哲学とマイクロアグレッション研究の関係についての発表をおこなった。近年英語圏を中心に活発に展開されている「マイクロアグレッションの哲学」であるが、その主な関心は概念の分析と差別問題の構造的把握にある。発表者はその状況を紹介したうえで、バトラーの時間論を参照することで、「マイクロアグレッションの哲学」とは異なるマイクロアグレッション現象に対する哲学的アプローチを提案した。

なお当研究会は、現時点での研究会活動の成果の発表として、9月22日から23日にかけて行われるカルチュラル・スタディーズ学会大会「カルチュラル・タイフーン2024」にて、「マイクロアグレッションの分野横断的考察 理論研究と事例研究の観点から」と題したグループ発表をおこなう。こちらでの発表に向けて、9月は準備を進める予定である。

現代思想研究会 2024年8月・9月活動報告現代思想研究会

活動日|8月31日、9月2日
参加人数|いずれも4名
報告者|客本敦成(比較文明学)

今回は8月と9月の活動日が近かったため、あわせて報告を行う。
8月には、茶圓彩氏(京都大学)による発表「「演劇性」概念における恐怖の問題」をおこなった。茶圓氏の発表は、アメリカの批評家マイケル・フリードにおける「演劇性」の概念について、フリードがこの概念を必要とした理由をスタンリー・カヴェルとの比較から明らかにしようとするものであった。
発表後の議論では、カントの『判断力批判』の崇高論の問題設定との類似性についての指摘がなされたほか、先行研究による、フリードにおけるホモファビア(同性愛嫌悪)の指摘についても議論がなされた。
9月には、林宮玉氏(大阪大学)による発表「ドン・ジョヴァンニ、ニーチェのもう一つの名前――バタイユにおけるシミュラークルの行方」をおこなった。林氏の発表は、フランスの思想家ジョルジュ・バタイユにおける「ドン・ジョヴァンニ」の形象について、キルケゴールのドン・ジョヴァンニ解釈やバタイユのヘーゲル&ニーチェ評価といったバタイユ思想のコンテクストを精査することを通じて、その哲学的企図を明らかにしようとするものであった。
発表後の議論では、ピエール・クロソウスキーのシミュラークル概念とバタイユの「ドン・ジョヴァンニ」形象の関係が改めて確認されたほか、ジャック・ラカンとバタイユの「ドン・ジョヴァンニ」解釈の違いについても検討された。
10月は池田信虎氏(大阪大学)の発表を行う予定である。