大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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マイクロアグレッション関連文献読書会 2024年9月活動報告

文責|客本敦成(比較文明学研究室)
活動日|9月17日
参加者|5名

 9月は読書会活動(17日)のほか、先月予告した学会発表(23日)をおこなった。学会発表は本プロジェクトの活動の成果を発表するもののひとつであるため、読書会活動の報告と合わせて報告する。

 まず、9月17日には、奥村晴奈、土屋友衣子、客本敦成が、それぞれ研究発表をおこなった。
 奥村は、アーヴィング・ゴフマンのスティグマ理論の観点から、マイクロアグレッション現象を相互行為のプロセスのなかに位置づける発表をおこなった。特にマイクロアグレッションの見過ごされやすさという問題について、マイクロアグレッションは、スティグマとして示された社会的属性をスティグマ者がスティグマであると言及しないことで見過ごされると言えるのではないか、という主張がなされた。
 土屋は、学校教育において発生するマイクロアグレッションについて、ミクロ・ポリティクスという観点から分析をおこなった。土屋は、生徒が「授業のなかでマイクロアグレッションが発生していた」ということを教師に主張することができるに至るプロセスに注目することで、マイクロアグレッションがどのような段階を経て解決されるべき問題として顕在化するかを分析した。
 客本は、ジュディス・バトラーの承認論の観点から、マイクロアグレッション現象における害の「ちょっとした」という性格をマイクロアグレッション現象発生のプロセスのなかに位置づける発表をおこなった。特に事象の承認において重要な作用を働かせる「引用」の機能に注目することで、マイクロアグレッション現象において感情の表出が重要な意味をもつことを指摘した。そして感情が表出されるに至る過程を明らかにする際に害の「ちょっとした」という性格が影響を与えると主張した。

 次に、9月23日の学会発表について報告する。本プロジェクトのメンバー4名(岸田月穂、奥村、土屋、客本)で、兵庫県神戸市で開催された「カルチュラル・タイフーン2024」にて、「マイクロアグレッションの分野横断的考察 理論研究と事例研究の観点から」と題した共同研究発表をおこなった。各報告の概要は以下の通りである。
 第一報告の客本は「蓄積された過去としての「ちょっとした侮辱」―ジュディス・バトラーの哲学からマイクロアグレッション現象を考察する―」という発表をおこなった。近年哲学分野においてマイクロアグレッション研究が盛んになる一方で、マイクロアグレッションの「ちょっとした」という性格が重視されなくなっていることを指摘し、ジュディス・バトラーの承認論を介して先行研究とは別のアプローチを提案した。
 第二報告の奥村は「マイクロアグレッションを解体する:日常的相互行為とスティグマの観点から」という発表をおこなった。奥村は(上述のように)スティグマ論の立場からマイクロアグレッション現象の分析をおこなうことで、マイクロアグレッションの分類についての再考察を行った。また再考察を通じて、〈人間が相互行為を維持しようとする〉という観点から、マイクロアグレッション現象が見過ごされてしまうことの理由を説明した。
 第三報告の岸田は「SNS上のトランスジェンダーに対するマイクロアグレッションと連帯の構造」という発表をおこなった。岸田は動画配信者A(仮名)の動画とそこに寄せられた視聴者のコメントを分析することをつうじて、インターネット上でなされるマイクロアグレッションが発生することと、マイクロアグレッションに抵抗するかたちで配信者と視聴者のコミュニティが形成されることを指摘した。
 第四報告者の土屋は「外国にルーツをもつ高校生が経験するマイクロアグレッション-トラブルのミクロ・ポリティクスという視点から-」という発表をおこなった。土屋はマイクロアグレッションが学校現場において解決されるべき「トラブル」として提示されるプロセスを分析するとどうじに、「ミクロ・ポリティクス」という理論枠組みが、トラブルとして同定される以前のマイクロアグレッションの分析について課題を有していることを指摘した。
 報告後の討議では、時間の制約もあり、十分な議論が尽くされたとは言えないものの、マイクロアグレッション研究における〈マイクロ〉性の位置づけをめぐって、議論がなされた。特に、マイクロアグレッションが害として同定されるに至るためにどのような段階があるかをめぐって、それぞれの理論的枠組みの比較がおこなわれた。

 「カルチュラル・タイフーン」での発表および討議を通じて、マイクロアグレッションという現象が、差別や抑圧、暴力についての研究の歴史のなかでどのような位置づけをもつかを明確にすることは必要な課題である、という見解が共有された。10月以降の活動では、特にこの点を課題として、議論をおこなっていくつもりである。