大阪大学
大阪大学大学院人間科学研究科 附属 未来共創センター
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美馬達哉氏講演会「傷つく身体から拡張する身体へ —ポストヒューマン時代における—」

活動日|2月10日

開催場所|大阪大学吹田キャンパスE106教室
参加人数|15名

内容報告|
 2025年2月10日に、美馬達哉氏(立命館大学)の講演会をおこなった。本講演会は「ポストヒューマンにおける人間の基礎研究」プロジェクト(2024年度「大阪大学学際融合を推進し社会実装を担う次世代挑戦的研究者育成プロジェクト」共同研究採択)を主催とし、大阪大学未来共創センター附属「哲学の実験オープンラボ」を共催としたイベントである。
 本講演会で美馬氏は、氏の著作『脳のエシックス 脳神経倫理学入門』(人文書院)で展開されたカトリーヌ・マラブーの神経科学に対する批判的分析、および氏の専門分野である神経科学の議論を手掛かりに、世界の中で様々なひとやものと関わりながら展開していく過程として身体を位置づけるという、身体についての基礎理論を提案する内容であった。美馬氏は講演会の後半では、現在の「傷」概念が個人の内面に基づいた概念であることを指摘し、むしろ「傷」を、社会構造と身体の関係において分析する必要があると述べた。
 講演会後の質疑応答では、様々な観点からの質問がなされた。たとえば、美馬氏の理論においては(マラブーが主題的に論じていた)「主体」概念が不在になっているのではないかという疑問が示された。美馬氏はそれを肯定したうえで、「主体」概念無しで身体についての理論を構築することは可能であり、課題としても重要であると応答した。
 ほかにも氏の理論がフリードリヒ・ニーチェの思想と親近性があるのではないかという指摘があったほか、あるいは心理臨床における「レジリエンス」概念との関係についての質問もなされた。総じて、狭義の哲学・思想に閉じない、学際的な議論が行われたといえる。