第一回 西日本哲学若手コロキウム
2026年3月22日(日)に開催された「第一回 西日本哲学若手コロキウム」は、西日本で活動する若手哲学研究者の対話的なプラットフォームを形成することを目的としたイベントであった。関西から九州圏の大学院生を中心としたこのイベントでは、セクションごとに区切られた研究発表とパネル・ディスカッションが設けられ、学問領域を越境した議論の空間が形成された。
第一セクション(11:00~12:45)では、三名の若手研究者による研究発表とパネル・ディスカッションが行われた。上岡壮真氏(大阪大学)の「一般確率論における測定の間主観性」は、フッサールの心理主義批判に応答しつつ、量子測定理論を用いて認識プロセスの可能性を数学的・物理学的問題へと還元する妥当性を検討するものであった。赤木優希氏(大阪大学)の「なぜ人間にとって死は脅威なのか:サルトル『存在と無』を手がかりに」は、サルトル『存在と無』に基づきつつ、自己の生を自ら意味づける自由が他者に奪われ、自己が即自存在へと落下する点にその恐怖の本質を見出すものであった。萩原一馬氏(大阪大学)の「アーレントの司法論──法の反復と最高裁判所」は、アーレントの法理論に基づき、最高裁判所を憲法制定という「始まり」の原理を現在において反復させ、政治の時間を持続させる装置として位置づけるものだった。パネル・ディスカッションでは、それぞれの発表内容への質問が交わされたほかに、上岡氏と赤木氏の研究に関連して現象学における客観性をめぐる議論が展開された。これら三名の研究発表は、大陸哲学の知見を取り込みつつも、単なるテクスト研究に留まらない現代的可能性を展望させるものであった。
第二セクション(12:45~13:55)では、二名の若手研究者による研究発表とパネル・ディスカッションが行われた。長尾義明氏(九州大学)の「意図した結果と意図せざる結果を区別することについて:行為論の観点から」は、行為の「意図した結果」と「副作用」の区別について、ポールの実践的コミットメントやフォン・ウリクトの実践的必然性の観点から解明を試みるものだった。中川祥太氏(大阪大学)の「先験性から反証可能性へ──ポパー科学哲学におけるカント認識論の批判的継承について」:ポパーの科学哲学をカント認識論の批判的継承と捉え、反証主義を先験的な科学観を可謬主義へと再編成するための理論的装置として位置づけるものだった。パネル・ディスカッションでは、互いの発表内容への質問が交わされたほかに、科学哲学と分析哲学という二領域の共通点と緊張が垣間見えた。これら二名の研究発表は、二十世紀の古典的理論の再検討によって現代の科学哲学・分析哲学の議論に貢献する、重要なものであった。
第三セクション(14:10~15:55)では、三名の若手研究者による研究発表とパネル・ディスカッションが行われた。甲藤彩華氏(大阪大学)の「障害者の自立生活運動に見る──「生きづらさ」に抗う術とその可能性について──」は、「青い芝の会」の障害者運動における抵抗としての「怒り」の意義を認めつつ、運動内部に伏在する男性中心主義による女性の抑圧構造を分析するものだった。葛西李成氏(大阪大学)の「カント『判断力批判』における認識能力と自然」はカント『判断力批判』を分析し、認識能力の主観的一致を可能にする根底として、人間的本性と自然との円環的な相互依存関係を見出すものだった。武田和真氏(九州大学)の「概念工学としての形而上学とは何か」は、伝統的形而上学の認識論的困難を回避するため、実在の探究ではなく概念体系の改訂を目的とする「概念工学としての形而上学」の有効性を考察するものだった。パネル・ディスカッションでは、互いの発表内容への質問が交わされたほかに、障害学・大陸哲学・分析哲学という異なった学域の相互理解が図られた。これら三名の研究発表では、異なった研究関心を持つ研究者らがともに議論するという、当コロキウムでのみ可能であるような討議空間が形成された。
第四セクション(15:55~17:40)では、三名の若手研究者による研究発表とパネル・ディスカッションが行われた。髙橋菜穂氏(大阪大学)の「非連続な時空間の因果を口語化する」は、量子力学における因果の危機に対し、カッシーラーの哲学に依拠して因果概念を理論的探究を導くための「統制的原理」として再定義するものだった。大石駿氏(京都大学)の「個性は美的普遍主義の敵ではない」では、美的普遍主義は個性を損なうという批判に対し、到達不可能な理想を目指すことの合理性を説くことで普遍的理想と個性の両立を擁護するものだった。南匠真氏(大阪大学)の「Ichikawaのポジティブな認識的規範について」は、Ichikawaのポジティブな認識的規範の妥当性を検討し、認識論のネガティブな傾向は信念形成の自動的プロセスの特性を反映したものだと論じるものだった。パネル・ディスカッションでは、それぞれの発表内容への質問が交わされたほか、分析哲学における「記述/規範」をめぐる専門的な議論が交わされた。これら三名の研究発表は、科学・芸術・信念形成といった実践に対し理論的基盤を与える、応用可能性に開かれたものであった。
本コロキウムは、それぞれの専門性に基づいた学際的な議論の空間を提供し、地域や大学の境界を越えたプラットフォームを形成することに成功した。次回、「第二回 西日本哲学若手コロキウム」の開催は2027年3月を予定している。
